2008年11月15日に岡山県倉敷市で開催されました全国音楽高等学校協議会(理事長校:国立音楽大学附属高等学校。以下、「全音高協」と記します)の全国大会で、CARSは「楽譜コピーに関するアンケート結果から」と題する講演を行いました。
全国音楽高等学校協議会は、全国の音楽に関する学科・コースを設置する高等学校78校を会員校とし、高等学校の音楽教育の振興に寄与することを目的としてさまざまな事業を行っています。
今回の講演は、2007年11月に全音高協の協力を得て実施した「楽譜コピーに関するアンケート調査」(PDF:325KB)に関連して全音高協から依頼を受け、実現したものです。

全国大会2日目の会場となった倉敷市立美術館の講堂で行われた講演では、まずCARSの小森代表幹事が「私は脳外科医から作曲家になるという変わった経歴を持っています。今でも手術はできると思うので、ご要望があれば手術をして差し上げます」と会場を和ませて、始まりました。N響のティンパニー奏者でいらしたお父様の厳しいピアノの指導の様子や劇の伴奏音楽から作曲の道に入ったことなど、作曲家となるまでの道のりを紹介された後、1970年の「黒猫のタンゴ」のヒットの頃からコピー機が普及しだすとともに合唱の楽譜が売れなくなって、今もJASRACから分配を受けている著作権料はコンサートや放送での使用料が出版物の使用料を大きく上回っていること、自分自身も学生の頃に合唱をやっていたので何曲も合唱曲を書いたが、出版するとコピーされてしまって楽譜が売れなくなり、楽譜出版社も作曲家を絞って楽譜を出すようになってきて限られた人の作品しか出版されなくなってしまったこと、ブラスバンドや吹奏楽の曲はオーケストラの曲よりも編曲に何倍も手間がかかるのに簡単にコピーされてしまって楽譜が売れないことなど、作家の立場から実情を語り、「楽譜の制作にはたくさんの人手と費用がかかっています。作曲家、作詞家、楽譜出版社の方々の生活がかかっております。どうか違法コピーはおやめください」と呼びかけました。

つづいて「楽譜コピーに関するアンケート調査結果」を松本事務局員(JASRAC職員)が説明しました。
回答者のほぼ全員が楽譜をコピーしたことがあること、コピーの目的については「授業で使うため」が約90%だったが本来著作権の手続が必要な「クラブ活動のため」のコピーも31%の方が行っていること、著作権や著作権法第35条(授業で使うためのコピーについての権利制限を規定)についても認知度は高いにも関わらず、生徒のコピーについては容認する方の割合が50%を超えていたことなど、知識と行動にギャップがあることをスクリーンに投影したアンケート結果などを使って説明しました。
また、松本事務局員がJASRACの出版許諾の現場から感じる楽譜をめぐる状況について次のように伝えました。 楽譜出版社や楽譜卸会社の倒産、廃業が相次いでいること、売れ筋の楽曲(アニメ主題歌等)は各楽譜出版社が競って楽譜を出版するが、そうでないものは出版されなくなってきていること、かつては初版部数が1万部、2万部で出版していたのに、今は多くて5千部、ほとんどは2千部程度の初版部数で出版していて、必然的に安くつくることは困難になっていること、実際にアンケートの回答にも「以前は容易に手に入ったポケットスコアなどが手に入らなくなった」「ピアノソナタ集がなくなってしまった」などの声があり、目に見えないところで楽譜コピーの影響は確実に出ている、と訴えました。 そして、ぜひ次代を担う生徒たちに楽譜コピー問題を投げかけていただき、楽譜と音楽の未来へ向けていま自分たちにできることを生徒と一緒に考えてくださるよう出席の先生方にお願いしました。
また、学校における音楽利用全般についても、音楽の利用の仕方や目的などによっては手続を要す場合もあり注意が必要なことや、卒業記念CDやDVDの制作に当たっては業者任せにせず、必ず著作権の手続きについてきちんと行っているかどうか学校側でも確認するよう求め、講演を終わりました。

出席されていた約80人の先生方は真剣に講演を聞いてくださいました。市販されている楽譜に多様性が失われつつあるとお話しした場面では、多くの方がうなずかれていました。この講演を通じて楽譜コピー問題とCARSの活動への理解を多少なりと深めていただけたことと思います。
最後に、今回、全国大会の貴重な時間をCARSにご提供いただいた全音高協の関係者の皆様へはこころよりお礼申し上げます。ありがとうございました。
(2009.3.31)